2010.03.12
感動の皿 NO2

 
2・いよいよフランスへ
 
1974年9月。1年後には一旦帰国する約束で、ついに日本を発つ日がやってきた。その日のことは、今でも時折夢に見るほど鮮烈に覚えている。
羽田空港の出発ロビーにいる私は、フランス語は話せない、知り合いもコネもない、包丁の持ち方すら満足に知らない。フランスに着いてからの宿泊先さえ決めてはいなかった。持っているのは、ただただ花の都パリへのあふれるような憧れと、一流の料理人になるという無謀ともいえる情熱、そして、革のボストンバックに入った15万円だけだった。
出国手続きを終え、搭乗。機内のほぼ半数を外国人が占めていた。国際都市といわれる東京でも、一度にこれほど大勢の外国人を見たことがなかった私は、すでに異国の地にでもいるような錯覚に陥り、それだけで気持ちの高ぶりを抑えることができなかった。落ち着かない気持ちのまま、席に着いた。
さあ、いよいよ離陸だ! シートに身を沈めていた私は、飛行機が滑走路を離れた瞬間、突如として恐ろしいばかりの緊張感に襲われた。次第に小さくなっていく東京の街並み。もしかしたら、これが日本の見納めかも知れない。生まれ育ったこの国に、再び帰って来られるのだろうか。このまま単身フランスへ行って本当に良いのか。私はその時、自分が描いている夢が途方もなく大きいことに初めて気が付いた。体が小刻みに震え、身体中からどっと冷や汗が吹き出してきた。
 そんな私をよそに、まるで最後の挨拶をするかのように、機体はゆっくりと大きく旋回した。強い西日が空をオレンジ色に染めていたあの日。ここから私の料理人としての苦難の一歩が始まるのだが、まさに手に汗を握る程緊張していた私は、まだその道の厳しさを知るはずもなかった。

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